コンピュータを活用した授業改善の工夫

〜ネットワーク教材の利用と蓄積〜

新潟県板倉町立豊原小学校 戸田 正明

1.概要
 ここ1〜2年、情報ネットワークとしてのインターネットが注目されるようになった。しかしながら、学校現場でのインターネットの利用については、整備が不十分なためもあり、これからの実践が期待される分野である。本実践は、コンピュータの活用の中でも特に、インターネットの学習活動の中での利用について実践してみたものである。
 本実践の特徴は二つある。一つは上越地域という限られた地域内での情報交換にインターネットを利用すること、もう一つは情報発信の手段として利用するということである。
 インターネットというと、世界中に広がる情報を手に入れるものという認識があるが、教育現場での活用を考えると、広い地域からの情報ばかりではなく、身近な地域の情報源としても活用していく必要があると考える。しかしインターネット上にある身近な地域情報は、まだまだ未整備である。そこで発想を転換し、子供が調べたことを発信し蓄積していくことで、必要な地域情報の蓄積をはかっていくことを考えた。子供にとっても情報を発信する活動そのものが、主体的な学習活動を促すと考える。

2.単元名 大地に水をひく〜中江用水〜

3.単元の目標
・身近にある中江用水について調べることを通して、開発に対する先人の工夫と努力を、使った道具や技術、用水に対する思いなどから、気付かせる。
・時代の様子や技術力はちがっても、生活向上は人々の共通の願いであり、その実現のために昔も今も努力が続けられていることに気付かせ、地域を愛し発展を願う態度を育てる。

4.単元の展開 全12時間(学習項目の中のかっこは時数を表す)

学習項目

学習活動

留意点

中江用水クイズを行う。
(1)
HTMLでつくった中江用水クイズをおこない、中江用水についての自分たちの知識を確認する。 NetscapeNavigatorを用いる。
春日新田小の4年生がまとめた作品を見る。(1) 春日新田小学校の4年生がまとめた「中江用水について」を見て、校区以外に広がる中江用水の様子や身近にあっても知らなかった中江用水の様子について知る。 豊原小学校がどこにあるか示し、地理感覚をつかませる。
活動計画をたてる。(1) もっとしりたいことや調べたいことをまとめる。 昔の中江用水の様子について資料集を活用する。
役場や関係機関、家の人に聞き、調べ活動を行う。
(1+家庭学習)
用水のことについて、町役場や中江土地改良区に電話して聞く。家の人に、昔の中江用水の様子を聞いてくる。 取材は子どもたち自身が行う。必要に応じて、デジタルカメラを貸し出す。
用水沿いに見学にいく。 (3) 自転車に乗り、用水沿いに水源まで見学にいく。帰路、郷土館に寄り、昔の道具や関連した話を聞く。 班ごとにデジタルカメラを渡して、大事だと思う映像をとらせる。
新たな情報をくわえて、見学のまとめを作る。(4+休み時間) ワープロソフトでプリントにまとめたり、クイズ形式にまとめたりして見学のまとめを行う。 まとめ方はコンピュータにこだわらず、紙によるまとめも奨励する。ただし、つくった作品について随時、意見交流をしていくよう指導する。
インターネット上にまとめたものを発信する。 (1) まとめた作品をお互いに発表しあい学習のまとめを行う。 ワープロソフトでまとめたグループの作品をHTML化し、春日新田小のまとめに付け加えて情報発信を行う。

5.地域情報のデータベースとしてのインターネット
 一昨年の春日新田小学校の4年生が、中江用水の学習のまとめに作った教材がインターネット上に公開されている(
http://hasu.educ.juen.ac.jp/nakae/index.html)。そのデータを学校のコンピュータにコピーして、用いた。
 この教材は平成6年度の春日新田小学校の4年生と当時担任していた木嶋達平氏(現中郷小学校)が作成したものである。もとはマッキントッシュのハイパーカードで作られていた。それのインターネット版(表紙:図1)である。その中には中江用水の流域図や高田平野の地図、それと地図上に調査地点などを記したもの(図2)などがある。なかでも地図上に調査地点を記したページには、子供たちが実際に見学に行って調べた内容(図3・図4)などが載っており、子供たちの学習にヒントを与えてくれる。

 図1:表紙        図2:高田平野地図の一部
 
  図3:子供たちの資料(サイフォン)     図4:子供たちの資料(班のまとめ)
 

 単元の導入で、このデータを見た子供たちは、「春日新田小学校の人たちは、私たちの学校のそばまで見学に来ていたんだな。」という驚きや、身近にあるサイフォンの建物の写真や説明を見て、「こんなふうになっていたんだ。」と再発見していた。普段見慣れている中江用水にも、様々な施設や姿があることを振り返ることができた。それとともに、豊原小学校が載っていないことや、他の資料について知りたいという要望がでてきた。そこで、中江用水について知りたいことを、クラス全体でまとめてみた。


=出てきた疑問=

1.サイフォンの管理者は?
2.サイフォンのごみはどうやって回収するか。
3.サイフォンの小屋は何か?
4.第3用水路って何か。
5.大ぶけ用水は何か。
6.用水の深さは同じなのか。
7.用水の幅は?
8.どんなところを流れているか。
9.石ひは何のためにあるか。他にもあるか。
10.用水は何のために作られたか。
11.流れるところはどうやって決めたか。
12.用水はだれが作ったか。
13.用水はどうやって作ったか。

 疑問を解決するためには、町の副読本だけでは無理である。そこで、家の人に聞いたり、役場の人、中江用水組合の人、春日新田小学校の人などに聞き、疑問を解決していった。だいたいのことは聞いて分かったのであるが、用水の幅などは実際に調査する必要があるということになった。そこで、自転車を使い、学校から水源まで見学に行くことになった。
 社会科の調べ活動というと、どうしても副読本などに頼りがちである。けれど、紙面の関係で資料の数に限りがあること、まとめ方がどうしても教師サイドになりがちであることなどの欠点を感じることがある。インターネットを使った地域情報の蓄積を行うことによって、いろいろな画像資料を簡単に手に入れることができる。また、情報の更新も簡単であるため、より新しい情報を手に入れることができる。さらに、副読本には載っていない子供自身が作った情報も載せることができる。これは、ほかの子供が見たときに分かりやすい上に、活動への刺激ともなる。


6.地域情報の取材〜直接体験とデジタルカメラの活用〜
 春日新田小のまとめや副読本、家の人などの取材で、中江用水について、いろいろな知識を身につけた後、自転車で用水沿いに見学に出かけた。
 実際に出かけてみると、資料からは得られない、いろいろなことに気が付いていった。たとえば、用水の脇の道は、必ず上流に向かって右側についていること、また、用水の制水栓も右側についていることなどである。これは、地形の関係から、右岸側に用水を供給しているためである。自転車に乗って、実際に見学したことで分かったことである。他にも様々な気付きがあった。
 そんな見学の記録を、子供たち自身にデジタルカメラで残させることにした。各班に1台ずつ、計4台による取材である。
 デジタルカメラを持たせることで、子供たちは、さらに取材意欲をもって見学していた。左の写真は、見学の途中で寄った、板倉郷土館での一こまである。ここでは、用水を掘るのに使ったと思われる、つるはしやもっこ、じょれんなどを見せていただいた。また、実際に触れさせていただき、その姿を撮っている様子である。
 見学の記録写真というと、今までは教師が撮って、後で使うことが多かった。子供たち自身が撮影することで、見学後のまとめの時に有効になる。自分たちが撮影した画像であるため、より一層見学体験を詳しく思い起こすことができるのである。直接体験とデジタルカメラによる記録を組み合わせることによって、学習のまとめの活動にスムーズに取り組むことができた。

7.情報の発信〜子供の目で見た情報とその発信〜
 見学にいったあと、中江用水について、それぞれのやり方でまとめることになった。まとめ方について話し合ったところ、中江用水クイズとしてまとめるグループと、見学記録としてまとめるグループとに分かれて活動することになった。まとめたものは、春日新田小の中江用水のデータに追加する形で情報発信させていきたかったので、子供たちには、できればコンピュータを使って文を書くように働きかけた。実際は、文字の入力に時間がかかるとか、面倒くさいという理由でコンピュータを使ってまとめた子供は半数程度になった。ただし、コンピュータを使っていない児童も、まとめに当たって情報提供をしたりして協力をしていた。
 中江用水クイズの方は、ホームページの中でクイズができるようにした。内容は、3択か5択のクイズである。
 図5:中江用水クイズ(一部)   図6:クイズの答え
 

 クイズづくりに当たって、子供たちはもう一度、資料を見たり、見学記録を見直したりしていた。また、クイズの中には、自分たちしか分からないような問題も設定していた。ホームページで公開するには、あまり適切ではないかもしれないが、それだけ自分たちの活動に思い入れがあると感じた。
 見学記録としてまとめるグループは、子供たちと相談して以下の4つの小グループに分かれた。
・板倉郷土館  ・小栗美作地蔵 ・大熊川サイフォン ・板倉発電所
まとめに当たっては、以下の点を指導した。
 自分たちが取材した時に撮影した画像や、教師の撮影した写真を一覧表にして渡し、その中から選ばせた。なかなか自分たちの意図する構図が得られず、もう一度取り直しに行くグループもあった。
 また、コンピュータのお絵かきソフトを使って、絵で図示させるようにした。子供たちは、吹き出しを入れたり、図を工夫したりしながらまとめていた。
 こうやって作った素材を、教師の方でワープロソフトの中に貼り付け、子供たちが文を追加して編集していった。教師の方は、その文をホームページの形式に書き直し、最初に見た春日新田小学校の中江用水のデータに追加していった。できあがった作品はクラス全員に配布した。
 図7:子供のまとめ(板倉発電所)  図8:子供のまとめ(大熊川サイフォン)
 

 図9:子供のまとめ(板倉郷土館)   図10:子供のまとめ(小栗美作像)
 

8.まとめ
 本単元でのコンピュータ活用のねらいは、情報の蓄積と活用である。特にインターネットを使った実践を試みた。
 今までも多くの学校で調べ活動やまとめが行われていたが、それはその年度だけで終わってしまうことが多い。せっかくのデータが有効に生かせず、もったいなく思っていた。ネットワークを用いて互いの情報を交換し、それを蓄積していくことで、今までと異なった活動ができるように考えていた。
 実際に春日新田小学校の子供が作った、中江用水の調べ活動を子供たちに提示すると、子供たちはそこからいろいろな情報を得ていった。
 まず効果的だと感じたのは、調べ活動の計画を立てるときである。何を、どのように調べていったらよいか経験の乏しい子供たちにとって、他校の子供が、どのように調べ、まとめたかを知ることで、自分たちの調べ活動を計画する時に大変に参考になった。
 また、まとめの時には、どのようにまとめたらよいか参考になった。すでにかかれている内容ももちろんであるが、子供たちは新たな発見を求めて見学し、まとめを行っていた。
 インターネットの活用というと、データを持ってくることばかりがクローズアップされるが、地域情報については、自分たちが情報発信するという姿勢が大切であると考える。また、学習活動を考えたときに、データを検索して持ってくることだけでは、子供たちの学習意欲は、さほど喚起されないのではないかと思う。それよりも、自分たちの調べたことをまとめたり、発信することを目的にすべきだと考える。そのほうが子供たちは意欲的に活動を進める。
 学習活動を進める過程で、子供たちは、中江用水のいろいろな事実を単に知識として知るだけでなく、『調べる方法』を学んだ。たとえば、今までは教科書や副読本に載っていないことは、すぐに教師に聞いて解決したつもりになっていた子供たちであったが、調査活動の中で、電話を使って取材したりしながら、教師以外の人にも働きかけ、教えてもらう姿勢が見られるようになった。また、最後に作ったクイズや見学記録も、一人一人の子供が自信をもって取り組んでいた。できあがった作品を大事そうにノートに貼っている子供が多く、満足感をもっているようであった。
 課題としては、まだまだインターネットを利用している学校が少ないため、共同学習が成立しないことがある。春日新田小学校にも問い合わせたのであるが、インターネットを利用している学年が異なることもあり、共同学習が成立しなかった。他の学校と連携をとり、共同で学習を進めていくことができると、もっと多様な学習が展開できるのではないか感じた。